
アロジン処理は、アルミニウムの表面に薄い化成皮膜を形成し、耐食性・塗装密着性・導電性を付与する表面処理です。膜厚が非常に薄く導電性を維持できるという特性から、電子機器や航空宇宙分野で古くから活用されてきました。近年は軽量化ニーズの高まりとともに、アルミニウム部品の防錆・塗装下地処理として、あらためて設計者の注目を集めています。
アルミニウム部品の表面処理を検討する際、多くの場合はアルマイトが第一候補ですが、「導電性を残したい」「寸法変化を抑えたい」「塗装の下地にしたい」といった要件では、アルマイトよりもアロジン処理が適しているケースがあります。両者の違いを理解しておくことで、用途に応じた最適な表面処理を選択でき、設計品質とコストの両面で有利です。
本記事では、アロジン処理の基礎知識から種類・規格・メリット・デメリット・アルマイトとの違い・図面指示のポイントまでをわかりやすく解説します。
目次
アロジン処理とは?
アロジン処理とは、アルミニウムをクロム酸塩などを含む化学溶液に浸漬し、素材表面を化学反応させて防食皮膜を形成する化成処理です。電気を使わず化学反応のみで皮膜を生成する点が特長で、耐食性の向上・塗装密着性の向上・導電性の確保を目的として用いられます。
アロジン処理の定義 ── アルミニウムに化成皮膜を形成する表面処理
「アロジン」は、もともとヘンケル社(日本では日本パーカライジング社がライセンス製造)のアルミニウム向け化成処理剤の商品名に由来する呼称です。
クロメート処理とはクロム酸塩を用いて金属表面に皮膜を生成する化成処理の総称であり、その中でもアルミニウム素材に特化した代表例として「アロジン処理」の呼称が広く定着しています。したがって、アロジン処理とクロメート処理は対立する技術ではなく、クロメートという大きな枠組みの中にアルミニウム用の代表例としてアロジン処理が位置づけられる、と理解するのが適切です。
アロジン処理の目的 ── 耐食性向上・塗装密着性向上・導電性確保
アロジン処理には主に3つの目的があります。
1つ目は、耐食性の向上です。アルミニウム表面に化成皮膜を形成することで、腐食の進行を抑制します。
2つ目は、塗装密着性の向上です。皮膜の微細構造が塗料やプライマーの食いつきを良くするため、塗装工程の下地処理として活用されます。
3つ目は、導電性の確保です。後述するアルマイトと異なり、アロジン処理は導電性をほぼ維持できるため、電気的な導通が必要な部品に適しています。
処理の仕組み ── クロム酸塩系溶液への浸漬による化学反応
アロジン処理の一般的な工程は、脱脂→水洗→(エッチング・デスマット)→化成処理→水洗→乾燥という流れで進みます。中心となる化成処理の工程では、リン酸・クロム酸・重クロム酸などを主成分とする処理液に部品を浸漬します。溶液中のクロム酸イオンがアルミニウム素地と化学反応し、表面に不溶性のクロメート皮膜を形成します。
電気を流す陽極酸化(アルマイト)と異なり、化学反応のみで皮膜が生成されるため、複雑な形状の部品や内面にも均一に処理できる点が特長です。処理前の脱脂が不十分だと皮膜が剥がれる原因になるため、前処理の管理が仕上がり品質を左右します。
アロジン処理の種類・規格
アロジン処理は、使用するクロムの種類(六価クロム系/三価クロム系)と、対応する規格・クラスによって分類されます。用途や環境規制への対応要否に応じて、適切な種類を選択することが重要です。
実務上は、「アロジン処理」とだけ記載すると、六価クロム系か三価クロム系か、耐食性重視か導電性重視かが加工先に伝わりにくくなります。そのため、図面では少なくとも「規格」「Type」「Class」「六価クロムフリー指定の有無」を明記するのが望ましいです。特にRoHS対応が必要な製品では、TypeⅡまたは六価クロムフリーであることを明確に指示してください。
六価クロム系と三価クロム系の違い(RoHS対応など環境規制)
従来のアロジン処理は六価クロムを使用する処理が主流でした。六価クロムは優れた耐食性と実績を持ちますが、人体・環境への有害性からRoHS指令やREACH規則などの環境規制の対象となっており、これらに対応する製品では使用できません。
これに対し、三価クロムを使用する処理(TCP:三価クロムプロセス)は六価クロムを含まないため、RoHS指令の規制対象外です。
自動車・エレクトロニクス分野では三価クロム系(クロムフリー)の採用が原則化しつつあります。三価クロム系は「クロムフリーだと性能が劣る」と誤解されがちですが、薬剤選定やバッチ管理を適切に行えば十分な品質を確保できます。ただし成膜後の目視判定が難しいため、塩水噴霧試験などの耐食性評価による品質管理が求められます。
| 種類 | 代表例 | 色調 | 特徴 | 用途 |
| 六価クロム系 | アロジン1200・アロジン1000 | 黄褐色~金色(1200)/無色~淡黄色(1000) | 耐食性が高い・自己修復性あり
RoHS・REACH対応外 |
航空宇宙・防衛用途 |
| 三価クロム系(TCP) | BONDERITE M-NT系など | 無色~わずかな干渉色 | RoHS・REACH対応 | 電子機器・自動車部品 |
主な規格(MIL-DTL-5541・JIS規格相当など)
アロジン処理を代表する規格は、米国国防総省が定める軍用規格「MIL-DTL-5541」(旧MIL-C-5541、正式名称:Chemical Conversion Coatings on Aluminum and Aluminum Alloys)です。この規格は、六価クロムを含むTypeⅠと、クロムフリーのTypeⅡに大別されます。
MILスペック対応のアロジン処理は、168時間の塩水噴霧試験による耐食性評価をクリアしており、航空機部品にも適用される信頼性の高い処理です。関連する規格として、MIL-DTL-81706やAMS 2473/2474などもあります。
クラス(Class1A/Class3)の違いと用途の使い分け
MIL-DTL-5541では、皮膜の性能によってClass1AとClass3に分類されます。Class1Aは耐食性を重視したグレードで、有色クロメート(アロジン#1200、黄~金色)が相当します。長期防錆が求められる航空機ボディや精密部品外装などに適用されます。
一方Class3は電気伝導性を重視したグレードで、無色クロメート(アロジン#1000、無色~淡黄色)が相当します。膜厚が非常に薄く、アルミニウム母材の導電性を維持しやすいため、電磁シールドやアース接続部など導電性の確保が必要な部位をはじめ、精密機械加工部品や民生用電子機器に採用されています。耐食性を優先するならClass1A(#1200)、導電性を優先するならClass3(#1000)という使い分けが基本です。
| Class | 重視する性能 | 代表処理 | 色調 | 主用途 |
| Class 1A | 耐食性重視 | アロジン1200相当 | 黄~金色 | 航空機・筐体・防錆重視部品 |
| Class 3 | 導電性重視 | アロジン1000相当 | 無色~淡黄色 | 電子機器・EMIシールド・アース部 |
アロジン処理のメリット・デメリット
アロジン処理は薄膜・導電性・低コストといった強みを持つ一方、耐摩耗性や環境規制対応の面で注意点があります。採用を判断する前に、メリットとデメリットの両方を把握しておくことが重要です。
アロジン処理のメリット
アロジン処理の主なメリットは以下の通りです。
- 防錆性の向上
アルミニウム表面にクロメート皮膜を形成し、腐食の進行を抑制します。皮膜には自己修復性があるとされ、傷がついても一定の防食性を保ちます。 - 導電性を維持できる
陽極酸化皮膜のような絶縁性の皮膜を作らないため、電気的な導通を保ったまま防錆処理ができます。特に#1000(Class3)は接点抵抗が低く、導電性が求められる部品に最適です。 - 塗装密着性が高い
皮膜の微細構造が塗料の食いつきを良くするため、塗装やゴム接着の下地処理として優れています。 - 寸法変化がほとんどない
皮膜厚が1μm以下と非常に薄いため、処理前後の寸法変化がほとんどなく、精密部品や公差の厳しい部品にも適用できます。 - 比較的低コスト
電解処理が不要で処理時間も短いため、アルマイトと比較して低コストで処理できるケースが多くなります。
アロジン処理のデメリット
一方で、以下の点には注意が必要です。
- 耐摩耗性は高くない
皮膜硬度がHv120程度と低く柔らかいため、傷がつきやすく、摺動部や摩耗が想定される部位には向きません。取り扱い時にも注意が必要です。 - アルマイトほど耐食性は高くない
皮膜が非常に薄いため、厚い酸化皮膜を形成するアルマイトと比べると耐食性は劣ります。また、酸性・アルカリ性の環境では皮膜が溶解しやすくなります。 - 六価クロムの環境規制対応が必要
六価クロム系のアロジン処理はRoHS指令などに対応できないため、環境規制対象製品では三価クロム系やノンクロム処理への切り替えを検討する必要があります。
アロジン処理とアルマイトの違い
アロジン処理とアルマイトは、いずれもアルミニウムの表面処理ですが、処理原理も得られる性能もまったく異なります。両者の違いを理解することが、適切な表面処理選定の第一歩です。
処理原理の違い(化成皮膜 vs 陽極酸化皮膜)
アロジン処理は、化学溶液への浸漬による化学反応で表面にクロメート皮膜(化成皮膜)を形成します。電気を使わないため、複雑形状にも均一に処理でき、皮膜も非常に薄くなります。
一方アルマイト(陽極酸化処理)は、電解液中でアルミニウムに電気を流し、素材自体を酸化させて陽極酸化皮膜を形成します。皮膜が厚く硬いため耐食性・耐摩耗性に優れますが、皮膜が絶縁性を持つため導電性は失われ、処理には通電用の接点が必要になります。この処理原理の違いが、以下の性能差を生み出しています。
性能の違いの比較表
| 項目 | アロジン処理 | アルマイト |
| 耐食性 | ○ | ◎ |
| 導電性 | ◎ | △ |
| 塗装密着性 | ◎ | △ |
| 膜厚 | 薄い | 厚い |
| 寸法変化 | 少ない | あり |
| 耐摩耗性 | △ | ◎ |
| コスト | ○ | △ |
どちらを選ぶべきか
選定の基準はシンプルで、求める性能によって使い分けます。導電性を維持したい、寸法変化を抑えたい、塗装やゴム接着の下地にしたい、コストを抑えたいという場合はアロジン処理が適しています。一方、高い耐食性が必要、耐摩耗性が求められる、着色(カラーリング)したいという場合はアルマイトが適しています。
例えば電磁シールドケースやアース部品のように導電性が必須の部品はアロジン処理、摺動部やカラー仕上げが必要な外装部品はアルマイト、という判断になります。両方の要件が部品内で混在する場合は、後述する図面でのマスキング指示によって処理を使い分けることも可能です。
アロジン処理が向いている用途・適用業界
アロジン処理は、薄膜・導電性・塗装下地という特性を活かせる業界で広く採用されています。特に、軽量なアルミニウム部材に対して導電性や塗装密着性を求める用途で強みを発揮します。ここでは、代表的な3つの業界における具体的な用途を紹介します。
航空宇宙
航空宇宙分野では、機体や構造部材に多用される軽量なアルミニウム部品の防錆処理・塗装下地処理として、MIL規格対応のアロジン処理が長年採用されてきました。皮膜が薄く寸法変化を抑えられるため、厳しい寸法精度が求められる部品でも防錆と塗装密着性を両立でき、信頼性の高い表面処理として位置づけられています。
電子機器
電子機器分野では、電磁シールドケースや筐体・アース部品・ヒートシンクなど、導電性を維持したまま防錆したい部品にアロジン処理(特に導電性に優れる#1000/Class3)が採用されます。絶縁性の皮膜を作らず電気的な導通を確保できる点が、精密な電子部品の要求に的確に応えています。
自動車部品
自動車部品分野では、電装部品やアルミニウム製の構造部品に対して、塗装下地処理や導電性確保を目的にアロジン処理が使われます。軽量化のために増えているアルミニウム部材を、コストを抑えつつ防錆・塗装対応できる点が強みです。環境規制への対応から、三価クロム系(クロムフリー)の採用が進んでいるのも自動車分野の特長です。
図面でアロジン処理を指示する際のポイント
アロジン処理を確実に注文するには、図面で処理内容を明確に指示することが不可欠です。指示が曖昧だと、加工先との認識の齟齬や仕上がりのばらつき・手戻りの原因になります。指示すべき項目は、処理名称・規格・対象面・マスキング指示の4点です。
図面には、「アロジン処理」という名称に加えて、対応する規格を明記します。例えば「アロジン処理#1200(MIL-DTL-5541 typeⅠ)」を指定すると、加工先が処理内容を正確に把握できます。環境規制対応が必要な場合は「三価クロム(クロムフリー)指定」であることも明記します。
部品の一部だけを処理したい場合や処理をしたくない箇所がある場合は、対象面を図面上で図示し、処理範囲を明確にします。導通を確保したい接点部やねじ部など、処理を避けたい箇所には「マスキング指示」を入れます。処理不可の範囲を図示し、「アロジン処理不可」などと記載することで、加工先はマスキングにより該当箇所への皮膜形成を防ぎます。
<図面指示例>

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製作事例
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部品名 | アルミ 角トレイ |
| 材質 | アルミニウム(A5052) | |
| サイズ | 板厚0.8t * X100 * Y150 * Z30 mm | |
| 工程 | 板金・グラインダー仕上げ(ビードカット)・アロジン処理・アーク溶接 | |
| 数量 | 5個 | |
| 単価 | 20,000円/個 | |
| 出荷日 | 7日目 |
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部品名 | アルミ フランジ付き短管 |
| 材質 | アルミニウム(A5052) | |
| サイズ | 板厚1.5t * X80 * Y130 * Z50 mm | |
| 工程 | 板金・グラインダー仕上げ(ビードカット)・アロジン処理・アーク溶接 | |
| 数量 | 5個 | |
| 単価 | 30,000円/個 | |
| 出荷日 | 7日目 |
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部品名 | アルミ テーパー管 |
| 材質 | アルミニウム(A5052) | |
| サイズ | 板厚1.5t * X70 * Y120 * Z180 mm | |
| 工程 | 板金・グラインダー仕上げ(ビードカット)・アロジン処理・アーク溶接 | |
| 数量 | 5個 | |
| 単価 | 20,000円/個 | |
| 出荷日 | 7日目 |
まとめ
アロジン処理は、アルミニウムをはじめとする軽金属に適した化成皮膜処理です。防錆性・導電性・塗装密着性に優れ、膜厚が薄く寸法変化がほとんどないという特性から、航空宇宙・電子機器・自動車部品など幅広い分野で採用されています。
一方で、耐摩耗性やアルマイトほどの耐食性は期待できないため、用途に応じてアルマイトとの使い分けが重要です。導電性や塗装下地・寸法精度を優先するならアロジン処理、耐摩耗性や高い耐食性・着色を優先するならアルマイトが適しています。注文時には、図面で処理名称・規格・対象面・マスキングを明確に指示することが、意図通りの仕上がりを得るための鍵となります。
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