
製品開発の終盤では、図面通りに作れるかではなく「ユーザーの使い方に耐えられるか」「量産品と同等の見た目・触感で評価できるか」が重要になります。そのためには、数点ではなく数十〜数百個の “使える試作品” が必要です。
しかし、3Dプリントでの製作数量を増やすとコストが膨らみ、表面品質や材料物性の差で量産想定の評価が正しくできなくなります。一方、射出成形は金型費と納期の負担が重く、試作段階では過剰投資になりがちです。
このギャップを埋める選択肢が「注型(真空注型)」です。シリコン型を用いて小ロットで作ることで、量産に近い外観・質感・機能を得ながら、試作サイクルを止めずに回せます。
本記事では、注型の仕組み、強み、活用シーンを “判断材料” として整理していますので、ぜひ参考にしてください。
第3回記事 「塗装仕上げまで!3Dプリントで強度・外観を両立 」はこちら
目次
小ロット試作で浮上した課題
最終評価フェーズでは、単品試作の延長ではなく「一定数量を同条件で使い、ばらつきや実装上の問題まで確認する」ことが求められます。特にユーザーテスト・現場テスト・営業サンプルでは、見栄えだけでなく触感・剛性・組付け性・耐久性などが評価対象になります。
ところが多くの現場では、ここで工法選定に行き詰まります。3Dプリントによる試作の製作数が増えるほど、量産工法との差が無視できなくなるためです。
具体的には、次のような課題が同時多発します。
- 量産品に近い外観・機能の検証がしにくい
3Dプリントの場合、積層痕や表面粗さ、材料の等方性/異方性の違いにより、外観評価や摺動部・嵌合部の評価がブレます。特に “見た目の完成度” や “触感” を問われる製品では、評価そのものが成立しにくいことがあります。 - 小ロットを受けてくれる加工先が見つからない
切削や簡易成形で対応できても、数量・納期・仕上げ条件(外観品質、塗装、ロゴ、印刷)まで含めると、対応可能な協力メーカーが限られます。 - 3Dプリントで数十個を作ると、コストが比例して増える
造形時間・後処理(サポート除去、研磨、塗装)・検査の工数が積み上がり、「最終評価のための数量」を用意するだけで予算を圧迫します。 - 射出成形は金型費と納期が長い
金属金型を作るには多くの費用と時間がかかるため、設計変更が発生する可能性のある試作段階では大きなリスクを伴います。
この状況で有効なのが、「3Dプリントで形状を固めた後、注型で “量産に近い小ロット” を用意する」という組み合わせです。形状確定と最終評価を分離でき、無駄な投資を抑えたまま評価精度を上げられます。
注型とは

注型(真空注型)は、マスターモデル(原型)からシリコン型を作り、そこへ二液混合の樹脂を流し込んで成形する工法です。射出成形のように高圧で樹脂を打ち込むのではなく、型に流し込み、硬化させて取り出します。
多くの実務では、気泡混入を抑える目的で真空環境下で注入・脱泡する「真空注型」が採用され、外観品質と寸法再現性を両立します。
量産品に近い外観と質感
シリコン型を使うことで、射出成形品に近い仕上がりを再現可能
注型は、マスターの表面状態をシリコン型が高精度に転写するため、外観品質を作り込みやすい工法です。3Dプリントでは積層跡が目立ちやすいですが、注型なら滑らかな仕上がりが得られ、ユーザーの評価にも十分応えられる見た目が実現できます。
特に「展示会サンプル」「営業配布品」「ユーザーに渡す実機評価」など、見た目の完成度が重要な場面では、注型の価値が直結します。
実務上のポイントは、外観品質は “型” ではなく “マスターの表面” で決まることです。マスター側で研磨・サフェーサー・塗装等を施しておけば、その仕上がりが注型品に反映され、量産品に近い質感に寄せられます。
柔軟な小ロット対応
10~50個程度の試作に最適で、金型コストを抑えられる
注型の得意領域は、まさに10〜50個前後の “ちょうど必要な数量” です。射出成形のような金属金型を起こさないため、初期費用の負担を抑えつつ、一定数をまとめて用意できます。
「ユーザーテストに30台」「現場テストに20セット」「社内評価用に10台+予備」など、現実の試作要求にフィットしやすい数量帯です。
なお、注型ではシリコン型に寿命があり、同じ型で作れる数量には上限があります。そのため、必要数量が多い場合は “型数を増やす” ことで対応し、納期とコストのバランスを取ります。ここが射出成形(1型で大量生産)との設計思想の違いです。
多様な樹脂選択
ABSライク、PPライクなど、量産材に近い物性を持つ樹脂を選択可能
注型用樹脂には、ABSライク・PPライク・PCライク・ゴムライクなど、量産材に近い感触や剛性を狙えるグレードが存在します。これにより、外観だけでなく、スナップフィットの感触や持ったときの剛性感など、 “使い心地” の評価精度を上げられます。
材料を選べるということは、試作の段階で「量産材を前提にした設計判断」がしやすくなる、ということでもあります。
ただし、注型樹脂は “ライク材” であり、量産材(実材)と完全に同一ではありません。そのため、引張強度や耐熱などの厳密な材料試験を目的とする場合は、評価の目的(外観・組付・操作・簡易耐久)を明確にして樹脂を選定することが重要です。
短納期での製作
シリコン型は簡易製作が可能で、数日~1週間程度で試作が完成
注型の大きな価値は、 “金属加工の待ち” を発生させずに量産寄りの試作品を用意できることです。設計の最終調整はスピードが命であり、納期が伸びるほど市場投入が遅れ、機会損失が膨らみます。
注型は、マスター作成→型取り→注型→仕上げ、という流れで進むため、射出成形より短いリードタイムで回せますが、実務上は、仕上げ条件(塗装・印刷・二次加工・組み立て)まで含めると納期が伸びることがあります。
そのため、最短納期を狙うなら、「どこまでを評価対象にするか」を決め、必要十分な仕上げに絞るのがコツです。
注型の強み
本金型投資前の「リスクヘッジ」になる
射出成形の金型(本金型・簡易金型)は、一度製作すると修正が難しく、万が一の設計ミスや仕様変更が発生した際のコスト・納期リスクが甚大です。 注型であれば、シリコン型を使用するため初期費用が安く、万が一の変更時も型を作り直すハードルが低くなります。「設計が100%確定していないが、実機相当で評価を進めなければならない」という局面において、過剰投資のリスクを回避しながらプロジェクトを前進させることができます。
社内承認・市場評価を加速させる「説得力」
図面や荒い3Dプリント品でのプレゼンでは、審査側(上層部やクライアント)に「完成形の想像」を委ねることになり、承認が下りなかったり、認識齟齬が起きたりしがちです。 注型は、量産品と遜色ない外観と手触りを提示できるため、言葉で説明せずとも「モノの説得力」で評価を得られます。これにより、デザインレビューや営業判定の意思決定スピードが格段に上がり、スムーズに次工程へ移行できます。
設計変更への柔軟性
シリコン型は改修が容易で、試作段階での仕様変更に対応しやすい
試作終盤でも、ユーザーテストや現場試験で設計変更が入るのは普通です。射出成形だと金属金型の改修が重く、変更が “心理的にできなくなる” ことすらあります。
注型では、マスターの修正や型の作り直しが比較的行いやすく、変更を前提にした開発の進め方と相性が良いです。
重要なのは、注型を使うことで「変更を減らす」のではなく、“変更すべき点を早く確定させる” ことです。結果として、量産の手戻りコストを最小化できます。
複雑形状にも対応
真空注型なら、複雑な形状やアンダーカットにも対応可能
真空注型は、気泡混入を抑えて充填性を高められるため、肉厚差のある形状や細部形状でも成形の再現性が上がります。
射出成形では、抜き勾配や金型分割、スライド機構などの制約で設計が縛られますが、注型は試作段階でそれらを緩和できます。ただし、量産では結局、射出成形の制約を踏まえて形状を整理する必要があります。
そのため、注型で複雑形状が成立したとしても、量産工法の制約を意識して “最終的に落とし込める形状か” を同時に確認するのが安全です。
注型の活用シーン

これまでの特徴を踏まえ、具体的に「いつ選ぶべきか」を整理します。開発現場で以下の状況に直面した際は、他の工法よりも注型が最も合理的な選択肢となります。
- 3Dプリントではコストが合わない数量(10〜50個)が必要な場合
数個なら3Dプリントが安価ですが、数がまとまると造形費と仕上げ工数が比例して増大します。数十個レベルの「中量試作」では、注型の方がトータルコストを安く抑えられます。 - 「小ロット」の依頼先確保に苦戦している場合
「本金型はまだ早い」「切削で50個は高額すぎる」といった理由でサプライヤーから敬遠されがちな数量帯こそ、注型が最も力を発揮する領域です。 - 展示会や営業用などで「見栄え」が最優先される場合
積層痕のない滑らかな肌触りや、塗装・シボ加工などの後処理を含め、ユーザーの感性に訴える「量産品同等」の外観品質が再現できます。 - 透明部品やゴム製品の評価を行いたい場合
切削では加工が難しい透明アクリルライクや、硬度指定が必要なゴムライクなど、材質的な再現性が求められる検証にも適しています。
まとめ
小ロット試作の終盤では、「作れるか」よりも「量産に近い条件で評価できるか」が最重要です。
3Dプリントはスピードと形状自由度に強い一方、数量増・外観品質・物性再現で壁が出やすく、射出成形は費用と納期が重く、試作段階の柔軟性を失いやすいという特徴があります。
注型は、その中間に位置し、10〜50個程度の試作品を、量産品に近い外観・触感で揃えられる点が最大の価値です。
最終評価の精度を上げ、設計変更の確定を早め、結果として量産立ち上げの手戻りを減らす――注型は “試作のための工法” ではなく、量産成功確率を上げるための工法として位置づけるのが合理的です。
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製作事例
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部品名 | フタ |
| 用途 | 試作品 | |
| サイズ | X50*Y50*Z45mm | |
| 材質 | 硬質ウレタン(PPライク) | |
| 耐熱温度 | 80℃ | |
| 数量 | 20個 | |
| 総額 | 109,200円 | |
| 出荷日 | 10日目 |
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部品名 | リアコンビランプ アウターレンズ |
| 用途 | 実車確認モデル | |
| サイズ | X400*Y400*Z200mm | |
| 材質 | 硬質エポキシ(透明グレード) | |
| 耐熱温度 | 110℃ | |
| 数量 | 5個 | |
| 総額 | 1,050,000円 | |
| 出荷日 | 15日目 |
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部品名 | インテークマニホールド |
| 用途 | 耐久試験用・先行開発用 | |
| サイズ | X400*Y250*Z200mm | |
| 材質 | PA6-GF30% | |
| 耐熱温度 | 200℃ | |
| 数量 | 10個 | |
| 総額 | 3,000,000円 | |
| 出荷日 | 30日目 |


